剣淵の蜂蜜

剣淵町には養蜂家が2軒います。そのお一人、早乙女さんと彼の生産品を紹介します。

早乙女さんは剣淵町に定住し、養蜂を行っています。
養蜂家の中には、花を求めて季節毎に日本各地を移動して採蜜する人もいます。
早乙女さんは剣淵町に定住し、春から秋にかけて採蜜します。
この地では、冬季は花はないので、蜂に砂糖水を与えてある程度暖かくした部屋で越冬させます。
ちなみに、自然の蜂は北海道の寒冷かつ多雪な気候では女王蜂以外は越冬できず、冬になるころに死滅します。
春になり、女王蜂が生む卵から蜂が孵り、活動を始めます。

ここ剣淵町では、単一種の花の蜜としては、アカシア、クローバー、タンポポ、イタドリ等から採れます。
これ以外の花が咲く季節、地域では蜂は雑多な花から採蜜します。
それらは「百花蜜」と呼ばれています。
一般にアカシアの蜜が高級品と言われますが、他は味、品質が劣るわけではなく、味の個性が強く出るものです。
また、花種が同じでも、季節、天候により水分が多くサラサラになったり、逆に粘度が高いものになります。
蜂蜜の水分量は一般的には20%程度です。
蜂が採ってきた蜜は水分が多く含まれていますが、蜂が口移しで巣に納める過程で、蜂の羽ばたきで水分がある程度蒸発しますが、それでも採取時期、花種により水分量はばらつくようです。
また、これは早乙女さんの経験知ですが、植物も常に蜜を出し続けるわけではなく、密を出す量に数日程度の間隔で多寡があるようです。
天候にも左右されるようです。早乙女さんは蜂蜜の加工・他成分の添加はしていません。
それゆえ、過度に水っぽいもの、百花であっても特定の花種により味が極端になったものは食べにくかったり、味の好みが分かれたりするので、出荷を控えることがあるようです。

蜂蜜は、働き蜂(すべてメス)が、花の蜜を一旦吸い込み、体内の酵素で分解したものを他の蜂に口移しで渡し、その蜂が巣で出したものです。
蜜が花中にある時は蔗糖であり、砂糖の主成分です。これを蜂が果糖とブドウ糖に分解します。
これらは単糖類であり、人間が体内に取り込んだ後、直ちにエネルギーとして使うことができます。
また、甘さの割にカロリーが少なく、身体への負担が少ないと言われています。花種によっては、若干のミネラルが含まれる場合もあります。

良いことずくめのように聞こえますが、2つほど留意点を申し上げます

⑴ 1歳までの赤ちゃんには与えないようにしましょう

蜂蜜内に、まれに僅かなボツリヌス菌が含まれていることがあります。
2歳以上になると身体の防御の仕組が整ってきますの、体内に入ってきても繁殖させることなく死滅させることができます。
ところが1歳まではこの仕組が整っておらず、体内でボツリヌス菌が繁殖し、様々な症状を引き起こすことがあります。
1歳までは蜂蜜、およびその成分が入った食品を与えないようにしましょう。(本件の詳細は厚労省のホームページに掲載されていますので参考にしてください。)

⑵ 菜食主義者でも蜂蜜を避ける人がいます

これは観光ガイドである自分自身への留意としても書くものです。

日本では多くはありませんが、海外では採食主義者が多くいます。インドでは、人口の約40%が菜食主義者であると言われています。(「通訳案内士試験 実務」三修社より)
菜食主義者と言っても、様々な方がいます。無論、肉は口にしませんが、卵は食べる人がいます。
逆に卵、蜂蜜等、植物以外の動物、昆虫を経由した食物は一切口にしない人もいます。(ビーガン、あるいはピュアベジタリアンと呼ばれます。)
歌手のマドンナも厳格な菜食主義者であると言われています。
現在、日本には海外からの観光客がすごい勢いで増えています。
その中には菜食主義者も含まれますし、宗教上の理由で食品に制限がある方もいます。
そのような方に食べられないものを提供することは大きな問題となることがあります。
食品を出す側、紹介する側としても「知らなかった」では済まされません。
外国人に蜂蜜を薦める際は、確認してからの方が良いでしょう。
ちなみに、そのような確認は全く失礼なことではありません[1]

結びに、北海道の養蜂家の心配を一つお伝えします。蜂蜜はヒグマの大好物です。
ゆえに蜜蜂の巣を見つければそれを壊して食べます。皮膚が厚いので、蜂に刺されても平気です。
まさに「くまのプーさん」の世界そのものです。養蜂家の巣箱を見つければ壊して食べます。
早乙女さんが巣箱を設置しているのは人里であり、山中ではありません。
ゆえに、熊がやってきて壊して食べる可能性は小さいのですが、それでも気を付けていると言っていました。


[1] 「通訳案内士試験実務」(三修社)では、菜食主義者を6種類に分けています。実際には地域、宗教、そして個人の判断により、さらに細かく分かれていると思われます。いずれにしても、私は観光ガイド(北海道登録)として、旅行者の食事には留意しています。